大判例

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札幌高等裁判所函館支部 昭和28年(う)122号 判決

原判決が被告人は山吹茂十郎の長男であつて直系血族として互に扶養義務のあることは民法第八百七十七条の規定するとおりであり山吹茂十郎が被告人の尊属でありその出生が明治九年一月十五日満七十七年九月の老者であることを認定した上被告人には他に四人の男子が生存することが明かであるから、この場合果して山吹茂十郎に生活上真に保護を要するとすれば民法第八百七十八条の規定するように誰が扶養するかを協議により決せねばならぬ。若し協議が調わない場合は家庭裁判所が定めることになりそのきめた上で扶養義務を尽さない場合に刑罰の論ぜられる可きは当然である。然らざれば極め手がない訳であるからその民法の規定を措いて直ちに本件を論ずるは飛躍に過ぎる。と判示していることは所論のとおりである。

元来民法の規定により尊属に対し扶養義務を負担する者はすべて刑法第二百十八条にいわゆる尊属たる老者等を保護すべき責任あるものに該当しその扶養義務者数人ある場合において尊属たる老者等と同居する者は他に扶養義務者があると否とを問わず保護をなす責任があるものと解すべきであつて民法第八百七十八条より扶養の順序を定めた上で扶養義務を尽さない場合において刑事責任を負うべきものと解することはできない。原裁判所で取調べた山吹茂十郎の戸籍謄本によると被告人は山吹茂十郎の長男であつて直系血族として互に扶養義務があることは原判決の認定したとおりである。しかるに原判決が山吹茂十郎には他に四名の男子があるから民法第八百七十八条により扶養すべき者を定めた上で扶養義務を尽さない場合に刑罰の論ぜられるべきは当然であつてこの民法の規定を措いて直ちに本件を論ずるは飛躍に過ぎる。と判示したのは法令の解釈適用を誤つたものでこの誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

同第四点(訴訟手続の法令違反)について。

原判決が犯罪事実の不存在と認定するに当り「弁論の全趣旨及びその後の情報により当裁判所に顕著な事実」により認定した旨判示していることは所論のとおりである。犯罪事実の存在、不存在は厳格な証明の対照となることは刑事訴訟法上明かであるから犯罪事実の不存在を認定するに当つては適法な証拠すなわち証拠能力があり、かつ適法な証拠調べを経た証拠によらなければならない。そしてその証拠の証明力は裁判官の自由心証によるものであつて弁論の全趣旨といつても何が証拠となつたものか判明しないし訴訟関係人の意見は証拠とならないものであるから弁論の趣旨が直ちに事実認定の証拠となるものではない。また公知の事実は証明を要しないが裁判所に顕著な事実は必ずしも公知の事実ではないから証明を要することは勿論であるし、裁判官が個人的に知り得た事実を事実認定の資料とすることは証拠法上許されないのであつて、若し裁判官の個人的に知り得た事実を利用する必要があるときは証人として尋問手続をとる外ないのである。しかるに原判決が「弁論の全趣旨及びその後の情報による裁判所に顕著な事実」を事実認定の資料としたのは証拠法則に反するものであつて、訴訟手続に法令の違反がありこの違反は判決に影響を及ぼすことが明かであるからこの点においても原判決は破棄すべきである。論旨は理由がある。

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